ブラジャー

暑い日が続いています。でもレパートリーがないので汗だくになりながらチャーハンをつくるしかないです。
引越してから今日まで誰もテーブルと椅子をくれなかったので、作ったチャーハンは中華鍋からこぼれ落ちた野菜片が散乱する床に座っていただくわけですが、ごちそうさまする頃には床がぬるぬるしてとても嫌な気分になります。
ところで私はブラサガリーマンをして生活の糧を獲ていまして毎朝汗で眼鏡を曇らせながら通勤しているのですが、朝たまにおしゃれスーツに身を包んだイケメン眼鏡の見るからに仕事ができそうなお兄さんを見かけます。
私なんか駅に着く頃には汗だくでもう少しでキリヒトのドラムばりに湯気でも立ちのぼりそうで、そのせいか最近私が乗る車両が空いてる気がするくらいなのに、その人の汗はさらさらでハンカチで汗を拭う仕草もなんか涼しげで、一言で言うととてもさわやかなんです。
さて今日も仕事が終わって変わり映えない毎日だな、とか考えながら缶ビール片手に家路を急いでいました。
家に帰っても誰も待ってないし、パンツ一丁で汗だくになってチャーハン作って床をぬるぬるにするだけなのにね。
あの角を曲がればもうすぐ家だ、明日は資源ゴミの日だ。提出は最初の授業で。とかぶつぶつ言いながら住宅街の路地に入ったらちょっと先に例のイケメンお兄さんと同じような背格好の男性が歩いていました。
でもなんか違和感があって、ちょっと雰囲気が違うというか。考えてみると歩き方がちょっと違うのです。いつもは颯爽と歩いているのですが、その時はなんか疲れている感じというかさわやかな人特有の勢いがないのです。
そういえば見かけるのは朝ばかりで夜は初めてだな、とかやっぱり仕事ができる人は疲れるんだろうな、とかちょっと思ってさっさと帰ろうと足を早め、追い抜こうと右からアプローチしたのですが、やっぱり気になる。
私はいつも背中を丸め自信なさげに下を向いて歩いているのですが、追い抜く直前にふと目線を上げてその人の背中を見たら、ブラ。ワイシャツにブラジャーが透けてる。あ、
ビックリして思わず声が出てしまったのか、雰囲気で気がついたのかその人は一瞬こっちを向き目が合いました。表情はいつもとは全く違っていましたがあの眼鏡は確かにあのイケメンのお兄さんでした。
その表情はかつて見たことのないようなものでしたが、その目には強い意志が感じられ何かを訴えているようにも思えました。でも一瞬のことでしたし動揺もしていたのでしょう、それが何かは分かりませんでした。
私はあたかも何事もなかったかのように努めて同じ歩幅、歩調を心がけしっかり足取りでその人を追い抜き、振り返ることなく自分の家に向かいました。
そして玄関の前でドアを開けようとしたときに初めて自分が拳を固く握りしめていることに気がついたのです。
左手に通勤用の鞄、右手には汗でじっとりと湿ったブラジャーを持ったまま。